地底初夜

    地底に降りていくとひんやりした緑色の世界だった。
    しばらくすると肌色だった私の体はうっすらとした緑色へと変化していった。
    太陽がない世界では朝も昼も訪れることはなかった。
    永遠の夜の中に私たちはいた。
    緑色のキュウリをかじったり緑色の枝豆を食べたりした。
    そうしてミントがたっぷり入った緑色のモヒートを飲み続けた。
    地底では一夜も明けず。
    光がないと時は過ぎず。
    それでも地上では、半年が1年になり、1年が3年になっていた。
    私の体はもう他の地底人と変わらぬ濃緑色の肌になっていた。
    不意に頭上高く遠い土の上から誰かが私の名を呼んだ。
    「ヤゴキンさーん!ヤゴキンさーん!」

    だが、私は、その声には、答えなかった。



    地上地獄

    地底人は、この地面の下、アスファルトの下に、住んでいる。

    なぜだろう?

    地底では、大雨も台風も地震もないからだ。
    昨今の天変地異なども、ただ地上に住んでいるから関係あるだけだ。
    罪人のほとんどが過酷な土地に住まわされるように、遠い昔に流刑されて、此処にいるだけだ。

    地上は、地獄の別名だ。

    地底前夜

    目を瞑り、耳を塞いだ。

    一切の、文字と音を、遮断した。

    大きく、深呼吸をした。

    心音と、血流に、耳を澄ました。

    およそ、10回、繰り返した。

    およそ、365日、繰返した。




    開眼

    それから幾日かすぎた。

    地底では数日だが、地上では数十年たっているだろう。

    みんな元気にやっているだろうか?

    もう死んでしまっただろうか?


    椰子金は物思いに沈んだ。

    鶴亀命「どうしたんだ若造、もう地上が恋しくなったのか?」

    椰子金「イヤ、別に。ちょっとそんな風に思っただけだ」

    鶴亀命「どうせあいつらは地上原理のウソに洗脳されたまま虚しく踊り死ぬだけだ」

    椰子金「地上ではすべてが噓の上塗りのデタラメばかりだ」

    鶴亀命「宇宙を想像しているつもりで悦に入っているボケナスばかりだ」

    椰子金「あいつらには想像力の欠片もない。ただ情報をインプットしてその気になっているだけだ」

    鶴亀命「その証拠に、地底を想像しろ、と言ったら、きっと何にも思いつかない。脳ミソが固まっているのだ。それでも自分の想像力の無さを棚に上げて、地底には何も無い、などと恥ずかし気もなく抜かしやがるのだ」

    椰子金「見えるモノしか見えない心盲だ」

    鶴亀命「ならば、おまえには、見えるか?」

    椰子金は、おでこのドリルを、ゆっくり撫でた。

    「今、クッキリ、見える。この地底世界の全貌が!」




    地底問答

    あたり一面、澄んだ緑色の世界に、2つの影が対峙していた。

    鶴亀命「なぜ此処へ来た?」

    椰子金「現実が、地上が、嫌になったからだ」

    鶴亀命「現実を変えようとは思わなかったのか?」

    椰子金「すべては地上原理の中の茶番だからだ」

    鶴亀命「地上に嫌気がさした奴はたいがい宇宙へ行く。なぜ宇宙へ行かなかった?」

    椰子金「現実から離れすぎているからだ」

    鶴亀命「ほとんどの者にとって地底より宇宙の方が現実だろ?」

    椰子金「地上原理の中のただの妄想だ。地上を牛耳る国家主義者たちの策略に乗っているだけだ」

    鶴亀命「おまえが言う現実とは何だ?」

    椰子金「この精神、だ」

    鶴亀命「おまえは社会主義者か共産主義者か?」

    椰子金「まったく違う」

    鶴亀命「おまえは何者だ?」

    椰子金「いま、地底人、となった」

    それから、2つの影は1つに重なりあい、緑色の世界へ消えていった。

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