森井聖大ファンクラブ通信

    マイペース・マイワールド

    自由律俳句の雄ー錆助・来県ー

    ドラッグストア『コスモス』の前であの男を待っていた。
    19時30分に待ち合わせていた。
    店外の灰皿の前、寒風に吹かれながら、わかばを2本吸った。

    黒の軽自動車が私の前に止まった。
    「やあ森井さん、久しぶりっす」

    不意に、人類史について考え、映画『猿の惑星』を思い出した。
    ゴリラと人間が分化したのはチンパンジーよりも前だ。
    その後、ゴリラはゴリラへ、人間は人間へ、それぞれの道を歩んできた。
    幾百万年を経て、再び、同じ街で、共に生きはじめた。

    街の中のゴリラ。
    服を着たゴリラ。
    車を運転するゴリラ。
    言葉を話すゴリラ。
    自由律俳句を唸るゴリラ。

    私たちは、今の今まで、疑うこともなく、人間社会を、人間だけの社会、と思い込んできた。
    だが、本当は、違う。
    本当は、こんな風に、様々な種類の類人猿が、この街の中で暮らしている。

    私たちの目は、節穴だ。
    思考は停止し、何モノにも気づけない。

    人間を含め尻尾のない猿たちは、分化のあと融合し、街の中で共生していた。

    そう考えると「同じ人間」という言葉は何と空虚な言葉だ。
    「同じ人間」という実体などどこにもない。
    この社会にはそれぞれの類人猿がいるだけだ。

    促されるまま、助手席に乗り込んだ。
    すると、一丁前にカーナビを付けていた。
    「ゴリラにカーナビかよ」
    たまらずそう叫んだ。
    すると運転手であるゴリラはニヤリこう言った。
    「いえ、ゴリラにゴリラっすよ」

    カーナビは使わず、『昭和食堂』まで、私がナビゲートした。
    金がないため入ったことはなかったが、店の前を何度も通っていた。
    『馬刺し盛り合わせ』の張り紙が気になっていたのだ。
    ゴリラには昭和の匂いがするし、場所として最適だ。

    ゴリラは慣れた手つきで車を止めエンジンを切った。
    「ここ?」
    「ああ、熊本まで遠かっただろう。せっかく熊本に来たのだから馬刺しでも食べて帰りなさい」
    ただ単に自分が食べたかっただけだが、そう言ってのけた。
    するとゴリラは、嬉々として、こう言った。
    「いやいや、たったの一時間っすよ。これならいつでも来れるっす。これからは月一くらいで食事しましょう!」
    熊本へ来てまだ二ヶ月だが、こうして文藝の友人が出来て嬉しい限りだ。
    「そうか、そんなに近いか?」
    「ええ、ええ、もう、近いっす、近いっす。ジブン福岡といっても熊本寄りっすから、天神行くより熊本っすよ!」
    ゴリラは屈託のない顔で笑った。
    久しぶりに話す文藝人を頼もしく感じ嬉しくも思った。

    それから私たちは『昭和食堂』の中へ入っていった。
    いや、正確に言うならば、『昭和の終わり』の中へと入っていったのだった。




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    つづく。



    Posted by 椰子金次郎 on  | 0 comments  0 trackback
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