マイペース・マイワールド

    金持ち喧嘩せず

    2人だけの送別会

    1ヶ月ほど前だ。
    以前、大分県での職場が一緒で、偶然にも熊本県内に転勤になっていた20代後半の男からメールが届いた。
    「仕事やめて沖縄へ帰ることにしました」
    彼との出会いは6年ほど前だった。
    専門学校を出て沖縄から出てきたばかりの彼を連れ、大分県一の繁華街・都町で朝まで飲んだことがある。
    沖縄の人は酒に強いという噂を確かめるべく、その時、朝8時まで飲んだのだが、彼は泥酔状態で転倒し、あばら骨を折り、翌日記憶まで飛んでいた。
    私にとっては微笑ましい思い出なのだが、彼には苦い経験だったのだろう。
    その後、私が飲みに誘っても、「いやあ、ちょっと体調が」などと言い、ずっと断られていたのだった。
    それでも、熊本に来てから、割りに近くに住んでいたこともあり、去年の年末に一度飲んでいた。
    その時も、新しい職場に馴染めない、と語っていた。
    横の席の先輩社員からメールが来ていたのを見て、すぐさま横を向き、口頭で答えようとしたところ、
    「今、忙しいから、メールで送って」
    と言われたとのことで憤慨していた。
    「いやはや、5秒で終わる話ですよ。一言で終わることを何でわざわざメールする必要があります?チャットならまだしもメールとなると文章も考えないといけないですし、そんなこと考える時間が勿体無いじゃないですか。あいつらバカですよ」
    去年会った時から、そのように嘆いていた。
    「まあ職業柄ロボットみたいな奴ばかりなんだろう。それにもまして人間らしい人間であればあるほど肩身が狭くなっている時代だ」
    「辞めようかと思ってるんですが、どう思いますか。プログラムの仕事は僕には合わないみたいです。森井さんは今までかなり転職して色々な仕事してますけど、やっぱ現実は厳しいんですかね、辞めないほうがいいんですかね」
    「難しく考えるなよ。嫌なら辞めたらいいんだ。いつでも辞めてやるって気持ちでいた方が楽だしね。大丈夫、俺を見ろ。生きるだけなら、なんとかなるもんだ」
    その時は、そのように答え、ひとまず慰めていたのだが、とうとう帰郷する事にしたらしい。
    地震や錆助事件など何やかやが重なり、話を聞くことも会うこともなかったから、少しばかり自責の念に駆られた。
    何も力にはなれなかったが、最後くらい、年配者らしく奢ってやろうと思った。
    「そうか、それなら、沖縄に帰る前に送別会でもするか。最後は、思う存分、飲み明かそう」
    そう返信した。
    そうして、1ヵ月後、約束した送別会の日が訪れた。
    だが、哀しいかな、私は、奢る金はもとより、自分一人飲む金すらままならない状態だった。
    彼はもう沖縄へ帰り、送別会の延期など出来ない状況でもあった。
    ひとまず行くしかない。
    私は、そのような複雑な気持ちのまま、空っぽの財布を持ち、約束の場所へと向かった。



    つづく。




    Posted by 椰子金 on  | 0 comments  0 trackback

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