マイペース・マイワールド

    心持ち喧嘩せず

    ジントニックの旅

    金曜日、飲みに出た。
    私に数ある独自研究に酒というジャンルがある。
    そのなかの命題に「初めての店では最初にジントニックを頼めばバーテンダーの技量が分かる」というものがある。
    これを実践する目的だった。
    そもそもは石原慎太郎がエッセイで「初めての店ではマティーニを頼めばバーテンダーの技量がわかる」と書いていた。
    銀座のBARルパンに行った際もマティーニを頼んだくらい実直に長年実践してきた過程で、あまりに強すぎてはじめの1杯にこれはあり得ないと思いはじめたのが、数年前だった。
    この疑問を多くのバーテンダーにぶつけると「西洋人と肝臓が違いますしね。わたくしどもはジントニックで判別します」と皆が口を揃えて言った。
    なるほど。
    ならば、と、それからここ数年は、まずはじめにジントニックを頼んできた。
    だが、実は何となく頷きながらも、てんでその意味がわかっていなかった。
    そんな忸怩たる焦りのなかで、先月旅先で訪れたとあるBARの老マスターに大ヒントをもらった。
    その時、ああ、これだったのか、という確信一歩手前までたどり着いた。
    そのあと一歩を確信に変えるため、今回はわざわざこの命題だけの為にBARへ行ったのだ。
    もちろんきちんとしたバーテンダーがいる可能性が高い値の張るBARを選んだ。
    労務者は私くらいで、客はみな男も女も立派なスーツを着た百貨店のマネキンのような連中だった。
    海外旅行や外車など、そんな浮世離れした話をしているようなBARだった。
    「ジントニックを」
    浮浪者のような私は、席につくなり、そう言った。
    するとバーテンダーは、お決まりの台詞を言った。
    「お好みのジンはありますか?」
    今まで気づかなかったが、ここが大事なところだった。
    この指定のジンについて前述の老マスターにそれとなく教えてもらった。
    この時にあるジンを指定することにより、その出てきたジントニックにより、バーテンダーの技量がわかるのだ。
    「〇〇〇〇〇〇・〇〇〇※1で」
    そう告げた。
    バーテンダーは頷いた。
    その後、バーテンダーは私の状態を探るために世間話を装いお決まりの質問をしてきた。
    食事は済ませてきたか、どこで飲んできたか、などだ。
    私は、どこで何を食べてきたか、何を何杯飲んだかまで細かに伝えた。
    そしてジントニックが出てきた。
    これで、このバーテンダーの技量が、分かるはずだ。
    口をつけた。
    薄い。
    ダメだ。
    これはひどいジントニックだ。
    せっかくの※1のジンの香りがステアしすぎてとんでいた。
    このバーテンダーは、イケメンが蝶ネクタイを結び、見かけは良いのだが、全く腕はない。
    そう思った。
    だが「ジントニックで技量が分かる」の命題を決定づけるにはまだ早計だ。
    まだそこまでの自信は持てない。
    そこで私はそれからマルガリータ、ギムレット、サイドカー、シーサイド、サファイア・マティーニ、ドライ・マティーニ、そして007のマティーニなど様々なカクテルを約10杯ほど頼んで飲んだ。
    カウンターに座る他の行儀のよいマネキンのような客たちは浮浪者と労務者の中間のような私とトム・クルーズばりのイケメンバーテンの死闘に見入っていた。
    最後にようやく確信を得た。
    やはり最初のジントニックを飲んだ感慨が全てだった。
    ジントニックがダメなバーテンダーは何を作ってもダメだった。
    いわばバーテンダーの格好をしたバーテンだ。
    この結論を得るのに、約3時間、金額で約2万円ほど使った。
    マネキンはもういなくなっていた。
    バーテンは名刺を差し出した。
    肩書きにバーテンダーと書かれていた。
    他の客もいないし良かろうと、一応注意しておくことにした。
    「きみは本当にバーテンダーと名乗れるのか?最初の一杯目のジントニック、あれはどういうことで、ああなったんだい?」
    「すみません、確かに薄かったですね。まだ浅い時間でしたし、正直わかりませんでした」
    「私はあのジン※1を頼んだ。それだけでどういう人間かわかるだろうし、そもそもあんなに薄かったらあのジンを頼んだ意味がない。特性である香りを消してたよ。きみはまだバーテンだよ」
    「はい、その通りです。ありがとうございます。勉強になりました」
    その後、違うBARを教えてくれた。
    「近くにカクテルコンテストで優勝した人がいます。僕よりは格段に腕がありますから、是非、寄ってみてください」
    ならば、と思い、店を出たが、もはや私の足はふらふらであった。
    視界が蜃気楼のようにかすみ歩くのも覚束ない程だった。
    そのままタクシーを拾い家まで帰ることにした。
    あれから1週間。
    病院には行っていないが、多分、急性胃炎だろう。
    熱が出て、吐いた。
    風邪のひどい状態になり、今日までずっと寝込んでいた。
    まだ胃が重たい。
    しばらく酒は飲まないと決めた。
    良いバーテンダーにあうと酒は友だちになるが、悪いバーテンにあたると酒は敵になる。
    最初の一杯で良いバーテンダーがわかれば、今回のようなことにはならないだろう。
    兎にも角にも今回の旅でようやく長年の命題「1杯目のジントニックでバーテンダーの技量がわかる」に結論を得た。

    ※1のジン銘柄については今度飲みに行った時に教えます。
    もちろん、アナタの奢りで。





    Posted by 森井聖大 on  | 0 comments  0 trackback

    Leave a reply






    管理者にだけ表示を許可する

    Trackbacks

    trackbackURL:http://saydie.jp/tb.php/1119-371b5bd6
    該当の記事は見つかりませんでした。