舞戻鶴亀命との会話

    地底人は椰子金を伴って浦島太郎のいる洞窟を訪れた。

    舞戻鶴亀命(マイモドリシツルカメノミコト)よ!地上人が来たよ!」

    どうやら浦島太郎は地底では舞戻鶴亀命(マイモドリシツルカメノミコト)と呼ばれているらしかった。
    地底人が呼びかけると、洞窟の中から浦島太郎改め舞戻鶴亀命(マイモドリシツルカメノミコト)がゆっくりと出てきた。
    舞戻鶴亀命は絵本で見るような顔ではなかった。
    顔は鶴で長い無精ヒゲが生えており、体だけは人間で、背中には羽根もあり、なおかつ亀の甲羅までもがくっついていた。
    絵本の中での素朴な村人風ではない舞戻鶴亀命の姿に、椰子金は度肝を抜かれた。

    「つもる話もあるだろう」

    そう言い残すと地底人は去っていき椰子金と舞戻鶴亀命は2人きりになった。

    「甲羅かっこいいですね」

    「そうか、おまえのおでこのドリルもなかなかサマになってるじゃん。この甲羅は亀からもらったんだよね。背中には羽根もあるしね。まあ水陸両用って感じだよ」

    「へえ……」

    実は人見知りの椰子金は、ともすると目を伏せ無になろうとする心に鞭打ち、言葉を探した。

    「そうだ、地上の話でもしましょう。あれから地上では……」

    そう椰子金が話しはじめた、その時だった。

    「地上の話はすな!反吐が出るわ!」

    これまで温和だった舞戻鶴亀命が急に激昂した。
    よく知らぬ人と話す時にままある不可解な感情の吐露に怯えながら、人見知りの椰子金は、なおも言葉を続けた。

    「しかし、アナタは、浦島太郎として地上では有名でして……」

    「くだらん!」

    「ほら、いじめっ子から亀を助けて……」

    「おまえ、まだ地上臭いな!全部、地上原理の噓ばかりや!」

    舞戻鶴亀命は椰子金の言葉に聞く耳を持たなかった。
    椰子金は無になるしかなくなり、完全なる沈黙が訪れた。
    知ったつもりでいたが実は見ず知らずの他人であったという事実より他に分かり合う事柄は何もなかった。
    それにもまして無言で見つめあっていると時の流れが止まったようにも感じた。
    もしかしたらもう地上では50年以上の年月が過ぎたのかもしれなかった。
    今、地上に戻ったとしても、友人知人家族のほとんどが細胞の枯渇とともに消滅してしまっていることだろう。
    もう西暦2080年くらいにはなっているだろう。
    そんな50年分の沈黙のあとだった。
    最初に口を開いたのは、舞戻鶴亀命の方だった。

    「わいについてこい!地上での洗脳を全て解いてやるよ!」




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