マイペース・マイワールド

    東南から来たはずだが、いつからか日本人。

    吉宗『百回くらいは生きたはず』を読んで

    この吉宗という作者は文学フリマで長らく親交のある添嶋譲さんの息子さんで現在20歳ということである。
    前回の第十五回文学フリマでは父親共々息子さん2人もブースにいて、更にその吉宗という長男が書いている小説があるとのことで興味深々で購入した。
    添嶋氏の著作は詩情豊かというか感情というか感性でのスイートな話が多いのだが、さてその息子さんはどういうものを書くのか気になった。
    更に親子で文学に興じるという今時珍しいDNAが気にもなったし羨ましくもあった。
    親子としてこれほど素晴らしい関係はないのではなかろうかとしみじみ思った。
    この作者は20歳ということで性別は違えど『何故?』の小柳日向と同い年ということもあり、そのあたりでどうしても比較しながら読み進んでいく。
    舞台は大学である。
    講義の途中、居眠りをしていた主人公の男子大学生・浅倉の横に、不意に美女で令嬢であるこの大学のマドンナ的存在の姫崎が座る。
    姫崎は悪夢にうなされ目を覚ました浅倉にハンカチを渡す。
    これがこの小説のはじまりだ。
    いうまでもなくどこかで見たようなありきたりなはじまりなのだが、何か新しいものを感じたのは、語りの視点である。
    一人称であると思っていたら突如三人称になり、これからもこの小説ではこの視点の変化が予告もなくむしろ唐突に起きる。
    このあたりのところで深みのない心情吐露に奇妙な深みを多少与えている。
    簡単にいうと、浅倉は輪廻転生をくりかえし、今まで百回くらい生きているということだ。
    その全てが二十歳までに死ぬ。
    そのことを姫崎に話し、2人は秘密を共有する関係として仲良くなるわけだ。
    もう1人重要人物として、山城という初老の男がいる。
    山城は浅倉と前世で友人だった。
    そうしてこれは最後の方でわかるのだが、前世でも山城が浅倉を殺し、今世も最後山城が浅倉をナイフで突き刺して浅倉は死ぬ。
    何故山城が浅倉を殺したかはもう1人の友人であった外岡を前世で浅倉が殺したようなものだからその復讐だということである。
    ストーリーテーラーとして物語を読ませる状況描写は細かく謎を用意しそれを解き明かすという設定なので読者を最後まで読ませることには成功している。
    そのへんは上手いと思った。
    このへんの物語性は父親である添嶋氏より数段上である。
    添嶋氏の場合はほとんど物語性はないといってもいいからだが、しかし心理描写などは若いせいもあるのか軽いし、型にはまっていて人間を全く描けていないので、このへんは心理描写のみで作品を構成している添嶋氏に軍配があがる。
    謎解きの部分も全く肝心要の部分が謎のままで終わっているし、著者はそのことを何とも思っていないのか何の説明すらしていない。
    1.何故、浅倉は何度も輪廻転生を繰り返すのか。
    2.何故、二十歳までに死ぬのか。
    3.何故、六時間しか起きていられないのか。
    4.何故、前世での記憶がフラッシュバックのように夢の中に現れるのか。
    全くわからないままだ。
    そうして何やら少女漫画のようなハッピーエンドを迎えるに至る。
    あとがきで著者が今回は重いものを書きたかったと書いているがただ適当に死ぬだけで内容そのものは重くも何ともなくむしろ肝心な部分で軽く深みがない。
    年齢の問題ばかりではなく、同じ二十歳でも小柳日向は深いものを書けているので、趣向の問題であろうと思う。
    これは先のブログ記事で書いたリズールには物足りない作品である。
    文学というのではなく、ラノベの部類に入る。
    欲をいうなら、ストーリーを作り読ませる技術はあるので、ラノベならラノベでもう1つ2つ謎を解決して欲しかったし、せっかく色々な前世での名前を書いているのだから、そこに繋がりをもたせ、上記「4つの何故?」とも繋げることで、もう少し物語としての深みも欲しかった。
    この作品で一番の評価を与えるとしたら、それはタイトルである。
    百回くらいは生きたはず。
    「百回くらいだと思う。百回も生きていたら一々数えていられないから、大体百回くらいとしか言えない」
    という部分が一番的を得ていた。
    絵本でベストセラーになった『百万回生きた猫』を引き合いに出し、「よくあいつ百万回も数えられたな」というクダリは、「確かにそうだ」と読者を納得させ、この著者のクールな洞察力と鋭さの可能性を感じさせる部分だった。
    次はヒーローものを書くそうなので次回作に期待する。

    Category : 読書・映画
    Posted by ポリネシアンハート on  | 0 comments  0 trackback

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