マイペース・マイワールド

    心持ち喧嘩せず

    風のJASON

    昨日の夜、大分に、突然、JASONさんが現れた。
    一瞬、おれは、ここがどこかわからなくなった。
    「とりあえず飲みましょう」
    ひとまず中津駅前の白木屋で飲むことにした。
    JASONさんは神奈川の人で、半年に一度、東京の文学フリマでしか会わない人だ。
    この平和でのどかな田舎町に元傭兵のJASONさんが来た。
    「もしかして戦争がはじまるのではないか」
    という妙な気分にさせられる。
    田舎町の空気に緊張の糸が張りつめた。
    駅のホームから降り立ったJASONさんの後ろから、米軍払い下げの戦車の群れや、マシンガンを構えた傭兵の群れも降りてくる。
    この町で戦争が起きる。
    おれは仕事終わりだったのだが、完全に日常から弾き出され、この町があと数時間後に焦土と化すと感じた。
    それは直感的な何ものかだ。
    白木屋に入ると、いまはもう『飲み放題プラン』をやっていないと言われた。
    おれは、
    「飲み放題をやらない白木屋に何の意味があるのだ?」
    と女性店員とJASONさんに向かって言った。
    女性店員は苦笑し、JASONさんはコートの隙間から胸に手を入れ隠している拳銃を取り出そうとした、一瞬
    「もう戦争がはじまる」
    と観念したが、ただ胸ポケットの煙草を取り出しただけで安心した。
    「生ビール、二つ」
    ひとまずビールを飲むことにした。
    傭兵時代の話や、戦争について、また現代社会について語り合った。
    アフガニスタンと日本を往復し、首都圏と大分県を行ったり来たりしていた。
    1時すぎまで、ビールばかり飲んでいた。
    『飲み放題』がなくなった分、時間を気にせずに飲めた。
    JASONさんがふと長旅で疲れた表情をした。
    「おれの家で休んでください」
    外に出ると、もうこの田舎町は、外灯すら消えている闇だ。
    雨が降っている。
    雨の闇のなかに、この真っ暗な田舎町の至るところに、街路樹の上や、草のなかに、JASONさんが連れてきた傭兵の群れが銃を構えて散らばっている。
    おれの家に着く。
    「布団は一つしかないのですが、よかったらどうぞ」
    戦士を休ませるのが町の住民の務めだろう。
    しかしJASONさんは、
    「野戦で慣れてますので、床で十分です」
    と床に雨で濡れたコートを着たまま寝転がった。
    コートの下には銃を隠し持っているはずだ。
    「では、おやすみなさい」
    部屋の照明を消して、撃ち殺されて当たり前だと観念して、おれは布団に入る。
    もうこの町は終わりだ。

    しかしおれは一夜明け昼すぎに目覚めた。
    まだ生きている。
    そうしてJASONさんは、
    「では帰ります」
    と中津駅のホームから帰っていった。
    風のように現れて、風のように去っていった。

    Category : 何故?記
    Posted by 森井聖大 on  | 2 comments  0 trackback

    2 Comments

    JASON says...""
    先日は大変御世話になりました。
    突然の訪問にも嫌な顔の一つも見せずに風雨をしのぐ寝床までも御世話になり感謝の言葉も御座居ません。
    此の御恩にはいずれ報いる所存で有ります。出来うる限り作品の寄稿という形で。

    其では、
    又、会う日を楽しみに取敢ず生きてみます。
    御機嫌よう。
    2013.02.16 20:46 | URL | #- [edit]
    森井聖大 says..."Re: タイトルなし"
    いいえ、お礼をいうのはこちらの方です。
    楽しいひと時を有難うございました。

    作品楽しみにしております。
    2013.02.17 00:25 | URL | #- [edit]

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