『君はフィクション』完成記者会見ー記事録1

    「皆さん、本日はお忙しいところ、森井聖大最新小説『君はフィクション』完成記者会見に、お集まりいただき誠にありがとうございます。この小説は4月発刊の『何故?第二章 零号ー衝動ー』において発表されます」
    司会進行のスーツを着たおっさんが記者席にむかって、はじまりの挨拶をする。
    記者席を見ると、ただっ広い会場に、ぽつんと、3人のやる気のない記者たちが座っている。
    本当に記者なのかどうかすらも怪しい、まるで浮浪者のようないでたちだ。
    よほど他に仕事がないあぶれた記者か、あるいは本当にただ雨風をしのぐために浮浪者が暇つぶしに座っているだけかもしれない。
    「それでは、はじめに、まず森井聖大さんから挨拶があります」
    記者席から「ぱつっ…ぱつっ…」というような、まばらな拍手が起こった。
    「えー、完成しました。これは文学史には残りませんが、森井聖大の作品系譜として後の研究者にとっては大事な資料になるでしょう」
    「死霊?」
    記者席のひげで顔が見えないおっさんが聞き返す。
    「資料です」
    森井聖大はめんどくさそうに答える。
    「それでは質問を受け付けます。質問がある方は挙手でお願いします」
    記者席を見るも、誰も手をあげない。
    会場の空気が止まった。
    あわてて司会者が付け足す。
    「質問しないと、おにぎりは配布されません」
    すると、眠りかけていた三人がハッと目を開けた。
    記者たちはやる気に満ちた表情に変わり、一斉に三人が手を挙げた。
    「それでは、そこのひげの人」
    司会がさきほどのひげで顔が見えないおっさんを指名する。
    「今回は、どういう小説なのでしょうか?ジャンル的には?」
    勢いよく立ち上がったおっさんが目を血走らせて質問した。
    「久しぶりに恋愛小説を書きました」
    森井聖大は答える。
    ひげのおっさんはそんなことはどうでもいいとばかりに、立ったことで疲れたのか腰をおろし、場内をみまわした。
    そして後ろに立っていた会場のスタッフに小声で「おにぎり」「おにぎり」とせがむ。
    よほど腹が減っていたらしい。
    スタッフがおにぎりをひげ男に手渡すと、むしゃぼりついた。
    それを見ていた他の記者二人も、興奮したのか、急に背筋をのばし、「ハーイ!ハーイ!」と大声をあげながら挙手しはじめた。
    「それでは、そこの毛布を着ている爺さん」
    司会者は次に、毛布を着て震えているいかにも何かの病を患っていそうな爺さんを指名した。
    「面白いですか?」
    何も思い浮かばなかったのか、ものすごく単純な質問をしてきた。
    是が非でも、おにぎりが食べたいということなのだろう。
    「面白いと思います。そこらのギャグ漫画より百倍面白い自信があります」
    森井聖大は真面目に答える。
    しかし、爺さんはもう聞いていない、座るやいなや、おにぎりを頬張り、喉につまったのか咳き込み、あわててスタッフが水を持ってきた。
    「お茶がいい」
    爺さんがそんなわがままを言った。
    スタッフは冷酷にも、
    「質問一つにつき、一アイテムです」
    とだけ答えた。


    つづく。
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