マイペース・マイワールド

    東南から来たはずだが、いつからか日本人。

    寓話【とある街の、壁の話】

    はじめに。
    この寓話は、かなりのスピードで走りぬけた者にしかわからない。数年間、1日の大半の時間を、矛盾を抱えていることをわかりながら、そのことに費やした者にしかわからない。多分、おまえと私と、あいつくらいにしかわからない。

    【とある街の、壁の話】

    一つの街があった。男は、いつからかこの街に住みつき、いつからか街の中を、無我夢中で走っていた。ある日、空を突き刺すほどに高く頑丈な壁の前まで、たどりつく。我武者羅だけが取り柄の男は、今までと同じように、壁を乗り越えようとした。何度も滑り落ちそうになりながら、無我夢中で壁をよじ登る。ようやく、どうにか、壁の向こうを、覗き見ることができた。そこで男は初めて、気づいた。この壁は、今までと同じ種類の壁ではなかった。この壁は、街の国境だ。壁を越えることは、街から、出て行くことを意味している。男は、しかし、ならば国境を広げよう、と壁を壊そうとした。あるいは、ぶち壊そうとした。そうして、いつか、小さな穴をこじあける。だが守衛を含め、街の住民たちは戸惑い、反発する。この壁を壊すことは、世界との国境線を失くすと共に、周囲を壁に囲まれた街の平和を、壊すことにもなる。壁を壊したが最後、この街の住民たちの安住の地はなくなり、かつて逃げ延びてこの街にたどり着いた住民たちを、再び世界の混乱のなかに投げ込む行為になる。

    「だから、おまえはあの時、この街に住む友だちのことを想い、壁を壊すことをためらい、なおかつ自分だけがこの街を出て行くことすらもためらっていたんだろ?」

    「あの時もう少しおまえの話を真面目に聞いてやればよかったな。私もその矛盾を痛いほど抱えながら走っていたんだからなあ」

    男は一つの結論に達する。

    この街の国境である、空を突き刺すほどの壁を、ぶち壊すことはやめた。この壁にたどり着いた者だけが、ここから出て行けばいいのだ。そして、もしおまえが望むなら、この街の壁を壊し世界に開け広げた時、この街の住民を守れるくらいの屈強な戦士になってから、再び戻り、今度こそこの目の前に聳え立つ国境線である高い壁をぶち壊せばいい。

    男は、この街を、旅立つことにした。

    たった一人で。

    特に行くあてもなく。


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