第四回福岡ポエイチにてー二日目打ち上げは初参加の彼の作品とー

    二日目ポエイチが終わり、打ち上げに行った。
    もう説明の必要はないだろう、お馴染みの川端商店街内にある『やぶれ居酒屋まさかど』である。
    隣の卓には、おなじみのお祭り男たちがいる。
    私は、奥から3番目の席に座った。
    私の横にはミッド氏、その横に高森氏の愛人、愛人の前にトルコの殺し屋、トルコの殺し屋の横に文フリ福岡副代表のごはんですよ、その横つまり私の前に座ったのが、彼だった。
    彼は、酒を飲めない人だった。
    メガネをかけている。
    昔ながらの年季の入ったオタクといった感じだ。
    年のころは、40半ばだろうか、よくわからない、いわば年齢不詳だ。
    背むし男とまではいかないが、かなりの猫背だ。
    痩せているが、痩せているという表現よりこじんまりしている、という表現の方が的確だ。
    どこかホーキング博士に似ている。
    とても体が弱そうだ。
    私たちは、ひとまず、ビールを持ち、乾杯をした。
    この店は、瓶ビールなので、注ぎあったりするのが弱点だ。
    酒を注ぐとは唾を吐かれ飲みあうのと同じ意だ。
    私は、そういう、農耕民の風習がとても嫌なので、一人、瓶ビールを確保し、手酌で飲んでいた。
    彼は、ウーロン茶を飲んでいた。
    そして、やおら、A4サイズのコピー用紙の束を取り出した。
    何気に見ると、びっしり文字が書かれている。
    彼と、目があった。
    彼は、私に会釈をし、何やら言いたそうに、もじもじしはじめた。
    仕方なく彼に問いかけた。
    「どうしたの?」
    彼は、少年のような表情で、にこり微笑み、しかし真剣な眼差しで、こう言った。
    「これ、読んでもらいたいんですが」
    そうして、その紙の束を私に手渡した。
    「これは?」
    「小説です。良かったら森井さんに読んで欲しいんです」
    「くれるの?」
    「いえ」
    「え?今?ここで?」
    「はい」
    もうビールを飲んでいるし、飲み会の席だと思っていたが、確かに今は文藝即売会後の懇親会でもある。
    しかし、そうはいっても、非常識だ。
    「今日は何冊売れたの?」
    私は、たまらず、そう聞いた。
    「0冊です……」
    「そっか……」
    「初めての参加だし、仕方ないです……」
    かなり面倒くさいが、0冊と聞いて、これは読まないわけにはいかなくなった。
    しかし、どう見ても、原稿用紙換算で300枚はあるから、打ち上げがこれで終わってしまうではないか。
    「全部は無理だよ。少しだけ。一番読んでほしいとこ選んでくれよ。少しだけよ」
    すると彼は、私から、コピー用紙を奪い、じっくり選び出した。
    長編ではなく、5編くらいの作品の束らしく、しばし考え、その中の一作品を私に手渡した。
    「では、これを」
    私は、ビール片手に、彼の小説を読み始めた。
    文章は読みやすく、なかなか面白かった。
    10分ほどで読み終えた。
    小説から目をあげると、彼が、私を見つめている。
    「どうでしょう?」
    「ラストで驚いた」
    「そうですか。これは推理小説の方法で書きました」
    「うむ成功している。うまいね。長いの?」
    「いえ、去年の夏、雨が多かったから、小説書きはじめました」
    彼は、少年のように柔和な照れ笑いをしてみせた。
    さてと再びビールを手酌で注ぎ、トルコ人やミッド氏と話すかと思った矢先だ。
    彼がまた新しい原稿をかばんから取り出し、私を見つめる。
    「どうした?」
    「今度は、これを」
    「まだあるの?」
    「これは小説ではなく、旅行ガイド本です」
    「うむ……」
    もうこうなったら最後まで付き合うしかない。
    私は、彼の手から、原稿用紙をひったくった。
    しかし、これまた長い。
    またもや300枚はある。
    「全部は無理だよ」
    「では、最初のところだけでも」
    「うむ……」
    読み始めた。
    通常紹介しないような穴場、というか何もなさそうな土地や町の一粒の何かを紹介するという主旨で、なかなか面白そうな本だった。
    「いいんじゃない」
    「今まで自費出版で同じようなものを2冊出したんですが、全く売れませんでした」
    「うむ……。その2冊は知らないが、これはそこそこ売れるんじゃない。あとはキャッチコピー次第だ」
    「どうしましょう」
    「うーん、そうだな、〈ブラタモリよりブラタモリ!誰も知らない町ガイド!〉こんな感じでいこう」
    私がそう言うと、彼は、またもや少年のように微笑んだのだった。
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